Please hear





ねぇ、こっちを向いて。
僕の気持ち知ってるんだろう?








「いい加減、帰ったらどうだい?」
「ヤダ」


向けられた言葉に速攻で拒否を示せば、プリントの上を走っていたペン先がようやく動きを止めた。
先程から繰り返される会話。
高校生らしからぬ返答に、ギッと椅子を回転させた成歩堂の視線が向けられる。


「響也くん、もう外暗いから」
「だから?」
「危ないから早く帰りなさい」
「子供扱いしないでほしいね」


授業中はダラけた、凡そ教育者とは呼べない態度。
それなのにこういう時ばかりは教師面をするのかと、響也は成歩堂の座る椅子を蹴り飛ばした。


「こら、やめなさい」
「その話し方やめてくれる?…ムカツク」


カツンとつま先で再度椅子の足を蹴れば、やれやれと大げさな溜息が零された。


「あのねぇ、キミが帰らないと僕も帰れないんだけど?」
「一緒に帰ればいいじゃないか」
「嫌だよ」


一人でゆっくり帰りたいんだ


そう言って、成歩堂は採点途中だったプリントを放り投げた。
微かに砕けた口調で、片手をパーカーのポケットに突っ込みふぁっと欠伸を一つ。
疲れたとボヤく姿に、響也は満足そうに笑みを刻んだ。


それこそ、アンタの本当の姿なんだろ?


「僕の前で『先生』するのはやめてよ」
「『先生』なんだから普通じゃないか」


ガラっと引き出しを開け、取り出された缶が一つ。
プルタブを引いた時点でまさか酒かと身構えた響也に、届いたのは甘い果実の香り。
よく見れば葡萄の絵が描かれた缶にホッとするものの、自前のジュースを隠し持っている教師もどうなのかと呆れが浮かぶ。
けど、そんなところが成歩堂らしいと思ってしまうのも事実。


「あー、生き返るなぁ」
「オヤジくさいよ」
「三十路はキミ達に比べたらオヤジみたいなもんだろ」
「てか、それジュースじゃないか」
「お酒より美味しいよ。・・あぁ、ほら、早く帰ったら?」


缶片手に、シッシッと追い払うようにひらめく成歩堂の手。
その手を掴み取り、ギュッと強いぐらいに握り締めた。


僕の気持ち、知ってるくせに。


「好きって、言ったよね?」
「聞いてないなぁ」
「あぁそう。成歩堂龍一、僕はアンタが好きだ」
「・・・・・・・・・」
「今度は、聞こえた?」


聞かなかったふりなんか、させてあげない。


「好き、なんだ」


聞こえないと言うなら、何度だって言ってやる。



「アンタが好きなんだ」




握り締めた手に額を押し付け、壊れた機械のように僕は同じ言葉だけを繰り返した。








返事をくれとは言わないからさ
(だから、ねぇ、僕の想いにちゃんと耳を傾けてよ)






パラレルとか好きすぎて困る。