相棒を託す





寒いなと思ったら窓の外を白い物がチラついていた。
読み掛けだった雑誌をテーブルへと放り投げ、外を見やすいように寝転んでいたソファの上で身を捩る。
背凭れに腕を乗せ、顔を埋めて暫し観察。

はらり、はらり。
一定の間隔で落ちていくそれは、まるで花びらのような淡い雪。


「これは少し積もるかな」


すぐに止むかと思ったが、雪は徐々にその姿を増やし視界を白く染めていく。
引き寄せられるようにソファから立ち上がり、歩み寄った窓を勢いよく開け放った。

吹き込む雪に覆われる視界。
身体を覆う冷風に、ハッと小さく息が零れる。
暖房を付けていなくても十分に暖かかった室内が一気に冷え、ふるりと身体を震わせた。


「寒い」


当然のように零れ落ちる言葉に、頭の中を過ぎったのは寒がりな娘と――もう一人。


学校に行っているみぬきは大丈夫だとして、彼――オドロキくんが、現場を見てくると出ていってから結構な時間が経過していた。
窓枠に腰掛け地面を見下ろせば、薄っすらと積もった雪に通行人の足跡が付けられていく。
傘の必要性が無かった天気は見事に外れ、行き交う人々の足を速めていった。


「さあて、どうしようか」

(寒いしな)


言葉とは裏腹に身体はゆっくり扉に向かっていく。
パーカーの前を上まで引き上げニット帽を深く被り、準備万端な自分に苦笑を一つ。
後は扉をくぐるだけとなったその瞬間、仕舞いっぱなしになり長い事使っていなかった愛用のマフラーの存在を思い出した。
まだ、同じように自分も現場に足を運んでいた頃。
依頼人に会う為、裁判所を訪れる為、何度も冬の寒さから身を守ってくれた相棒の一つ。
引きこもり生活に馴染み、めっきりと出番の無くなってしまったそれが脳裏に浮かべば自然と足がクローゼットへ向かう。

使うには、いろいろな思い出が詰まりすぎていて。
それでもこのまま眠らせてしまうには、惜しくて。


「―――使って、貰おうか」


彼に使われるなら、本望だろう。
いや、彼にこそ、使ってもらいたいのだ。


取り出したマフラーは長い年月を感じさせず、あの時のままだった。
懐かしい温もりを指先に感じ、鼻先を埋めれば冷えた頬があたたかくなっていく。
それはまるで、7年前自分を取り囲んでいた暖かさのようで何とも言い難い感情が胸に浮かぶ。
変わらない物。
変わってしまった物。


変わったようで、本当は――――


「――行ってくるよ。留守番よろしく、チャーリー先輩」


名残惜しげに顔を離し、首に掛ける事なくマフラーを持って部屋を出る背中に、緑の葉がそよそよと揺れた。






相棒を託す
(引き継がれる思い出の品)




冬の小話(続きます)